ひとりで飲む
ひとりで飲む。
これは今でも大っぴらには言えない事で、大抵は「信じられない」という顔をされます。ということもあって、飲み仲間以外にはあまり公言しないんですが、たまに知り合いと、ひとり飲みの話になった時に「一人で飲んでいて楽しいんですか?」と言われた時に返答に困ります。
このような話の展開になるとかなり面倒ですので 「ひとりでじっくりと飲む酒には、また違った良さがあるんですよ」と言いたいところですが、「確かにね、孤独なんですよ」とだけ言って、なんとも煙に巻いた形で話を終わらせるしかありません。でも本当は「一人は誰にも気を遣うこともなく、自由に酒を飲み、自由に料理をたのむことができる」という理由が大きいのです。
居酒屋では何もしなくていい
1日の内で「何もしなくていい時間」「何も考えなくていい時間」「ぼーっとしていていい時間」という自分だけの時間を作りたい時があります。自宅でぼーっとしていたら案外家族から怪しまれますし、なかなか人に邪魔されずにぼーっと出来る時間、場所って少ないと思うんです。パチンコや漫画喫茶でもいいのですが、私はお酒が好きなので居酒屋でひとり飲みがしっくりきます。
ひとりですので、行きたいときに居酒屋に行けます。ひとりなので、混んでいて入れないことも少ないです。食べ物も飲み物も誰に気兼ねすることなく、自分が今食べたい料理を自分のペースでオーダーできます。それに料理はすべて自分で食べられるのです。素晴らしい。それに居酒屋のつまみって、みんなで取り分けて食べるより、一人で食べた方が美味しいと思うんですよね。
そして酔いがまわってくる時の心地よさ、これはひとり飲みだから味わえる格別のものです。
カウンターですること
ぼーっとする
ひとり飲みに抵抗がある方は、カウンターに1人で座って、果たして何をしていいのか分からない、という感じだろうと思います。わかります。でも基本的に「ひとりで静かに飲む」「そして何も考えない」「ぼーっとする」というのが「ひとり飲み」の基本だと思うのです。誰にも邪魔されず、あえて退屈を味わいます。いや、退屈する以前に居酒屋の中ではすることが意外と多いのです。まずはスマホの電源をオフにしてみて、居酒屋におけるひとり飲みの至福の時間を楽しみましょう。基本は「ぼーっとする」です。
メニューをじっくり見る
初めてのひとり飲み。勇気をもって引き戸を開けましょう。既にいる常連人が一斉にこっちを向きます。でもまったく気にすることはありません。人差し指を立てて「ひとりです」と言えば、カウンターもしくはテーブル席に案内してくれます。先ほど一斉にこちらを向いた常連客も一瞬にして自分たちの世界に戻っていきます。
まずは瓶ビールを頼んでお通しを食べながらメニューを見ていきます。瓶ビールは自分でグラスに注いで飲むという「自分で何かをする」という行為が発生するのでひとり飲みには瓶ビールしかありません。そして壁のメニューや今日のおすすめもじっくり見ます。お通し、突き出しというのは、今日はどんな感じで酒とツマミをたのもうか、という自分なりのオーダー構成を考えるために出てくるものです。瓶ビールとお通しを味わいながら、じっくり考えましょう。
普段注文しない料理をオーダーする
ついつい、いつも食べている定番のつまみを注文してしまうことが多いのですが、メニューをじっくり見た後はちょっと新しいつまみにチャレンジしたい時があります。モウカの星、カワハギの薄造り、のど黒の塩焼き、笹かれい焼き、はもおとし、スペアリブ赤ワイン煮、とりレバーカツレツ、鴨ロース、柳川鍋、パクチーとりんごサラダ、というなんとなく今までひとり飲みでは避けていた一品、そして居酒屋でしか食べることのできない一品を注文します。もちろん料理は独り占めできるのです。
新聞や雑誌を読む
瓶ビールを飲みながら、いきなり新聞を読み始めることもあります。夕刊でもいいのですが、お店にスポーツ新聞の朝刊があれば、改めてじっくりと読んでいきます。とにかく時間はゆっくりと流れていきますので、新聞の隅々まですべて読んでしまうぐらいの勢いです。もちろん日経でもいいのですが、日経は朝の電車で主要な記事は読んじゃいますし、最近はタブレットですし、居酒屋ではなかなか読めないスポーツ新聞、もしくはタブロイド判の夕刊紙をじっくり読む、これがおっさんらしくいい感じです。
あと雑誌も読みますが私は週刊文春。そしてNumber(ナンバー)のような読み物系を読むことも多いです。これも最近はスマホやタブレットで200誌以上の雑誌を読むことができますので、あえて紙の雑誌?という感じもしますが、ひとり飲みの時は駅の売店でわざわざ夕刊紙や雑誌を買っていく事もあります。あと本屋で鉄道ピクトリアルとか読み応えのある月刊誌も。
日本文学を読む
文庫本を読んでいる人はよくいらっしゃいます。ほとんどの方が紙の本で文庫本。あまりKindle PaperwhiteやOasisで読んでいる人はみかけません。「何を読んでいるんですか?」なんて聞かれたら少し面倒ですが、まぁ適当に答えておけば大丈夫でしょう。個人的には今まで読まずに過ごしてきた日本文学をしみじみ読むのが好きです。最近は川端康成や志賀直哉とか。もちろんこの事は誰にも言いません。
紙とペンを持つ
スマホをいじるのは最後にとっておいて、紙とペンを出して「書く」態勢を整えます。スマホはとにかく誘惑が多すぎますし、通知もたくさん飛んできます。一旦それから少し離れて紙と向かい合う時間を作ると、思ってる以上にいろいろなことが書けるものです。
明日やるべきこと、今日できなかったこと、今月中にやること、思い浮かんだこと、ちょっとしたネタ、とりあえず絵でも箇条書きでも、アプリやソフトに縛られることなく、紙には自由に書き記すことができるわけです。これは明日からのためにもなるし、紙とペンだと自然体で使うことができます。特に万年筆だとなぜか気持ちもアガってきます。
トイレに行く
特に初めての店であれば、トイレには行っておいた方がいいです。居酒屋の店内で動ける範囲は自分の席とトイレまでの往復のみ。そこでトレイには行っておきましょう。トイレまでゆっくりと歩きながらその店の内装を確認しつつ、トイレに到着しドアを開けます。トイレで人は必ず何かを感じるものです。
インテリア、清潔感、温かみ、居心地、センス、何かしらを感じとるのが居酒屋のトイレだと思います。トイレまでの途中に小庭がみえたり、離れがあったんだ、といろいろな発見もあります。そしてトイレがホッとする空間であれば、もう少し飲んでくか、という気持ちになることもあります。
ちょっとしたテクを学ぶ
こんなにも一人の時間を作ることができるのも「ひとり飲み」だからこそ。それはとても貴重な時間でもあるわけです。よってその時間内でちょっとした技術を学んで覚えたい衝動に駆られる時があります。ここは居酒屋なのに。なぜ。
たとえばアウトライナーを覚える、Markdownライティングをちょっとだけかじる、HTML&CSSを学ぶ、Windows10のショートカットを覚えてみる等、普段なかなか時間のとれない学びの時間にしてしまうのです。ただこちらはいい感じに酒を飲み続けていますので、徐々にほろ酔い気分で気持ちよくなっていきます。よって真面目な難しい技術書よりは、Kindle Unlimited等で無料で読むことのできるような簡単なものがいいと思います。居酒屋で技術書というあり得ない組み合わせにハマります。
おわりに
居酒屋での「ひとり飲み」のいいところは、誰にも煩わされずに酒と肴に集中できることです。「群衆の中の孤独」これが居心地がいいのです。そして家に帰れば帰ったで、今度は家族と話さなくてはいけませんので、居酒屋ぐらいはゆっくり過ごしたいものです。