Rocketboy Digital

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「隠れ家 居酒屋 谷ツ田」の思い出(さいたま市から川口市へ移転)

隠れ家から表へ

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 以前京浜東北線の北浦和という駅から歩いて数分のところに「隠れ家 居酒屋 谷ツ田(やつだ)」という飲み屋があった。北浦和という街には酒場街がなく居酒屋やバーが点々としているのだけど、谷ツ田は駅チカではあるもののかなり奥まった場所に位置しており正に「隠れ家」そのものだった。カウンターは8席、小上がりも10人でいっぱいになってしまう小さな居酒屋であったけど、僕の一人飲みはそこから始まった。

 最初は外に貼りだしている今日のおすすめメニューと日本酒のラベルが貼られている趣のある壁が気になったまま数ヶ月が過ぎ去ったのだけど、ある日突然意を決して引き戸をガラガラっと開け、指を1本立てて「一人なんですが・・・」と暖簾をくぐった。そしてその翌週に再訪して焼酎のボトルを入れた。そこから週2回、週3回、そして週5回とか谷ツ田に通うようになった。基本的に店長さんとバイトの2名体制。私は特に目当ての女性がいる訳でもなく、カウンターに座って、普段見ないようなテレビ番組を見ながら、酒を飲み、その日のおすすめメニューをつまんでいた。世界のビックリ人間やとんねるずの男気ジャンケンを観ながら居酒屋で飲む。ただそれだけの日々。それを週3〜5日も通い続けるようになった。

 とにかく居心地が良かった。店長さんとは適度なタイミングでいろいろな話をしたり、常連さんとも顔馴染みになりながらも一定の距離を保ちつつ、その酒場で2時間くらい過ごすのがとても落ち着いて気分が良かった。

 そしてその「隠れ家 居酒屋 谷ツ田」が移転するという知らせが入った。その土地にマンションが建つとのことで、それはどうしようもない現実であった。もちろん私を含む常連たちは勝手に北浦和か浦和に移転してくれるものだろうと思い込んでいて、意外とのんきにその状況を見守っていた。ただ決まった移転先は川口だった。京浜東北線で5つ東京寄りの駅である。

 北浦和の谷ツ田は店内のキャパも16人程度、隠れ家なのでふらっと入ってくる客もいなく、こじんまりとした店であった。店長さんとしてはもっと大通りで試してみたい、そしてもっと大勢の方に自分の料理を食べてもらいたいという思いがあり、もちろんお店をやっていく以上売上を伸ばしていくことも、大切な要素であったであろう事は十分想像できる。

 川口駅の1日の乗車人員(あくまでも乗車)は約8万人。北浦和の乗車人員は1日約5万人。この3万人の差以上に川口という駅、街は北浦和なんかには太刀打ち出来ないくらい大きな都市というイメージがあり、新店舗も非常に賑わっている一角にある。

 店長としての野望が実現して次なるステージに進んだ事は、とても喜ばしく僕は祝福してあげなければいけない立場なのはわかっている。移転先にも足を運んでみたが、もちろん以前の北浦和時代の谷ツ田の雰囲気はそこにはなく「隠れ家 居酒屋 谷ツ田」から隠れ家がなくなり「居酒屋 谷ツ田」に変わっていた。非常に嬉しいことなのに、とても寂しい気分になり、その気持ちを未だに引きずっている自分が情けない。

 既に川口の常連さんが付いているし、場所的に通いづらいんだから無理して通わなくていいのは分かっている。行きたければ行くし、行きたくなければ行かないという、ただそれだけのことである。一人飲みを始めた店だから思い入れが強いのかもしれないが、こういう状況を「普通の事」だと受け止めて、また通える店を探せばいいだけの話である。

 ただ北浦和の谷ツ田で知り合った常連客と会う機会はほとんどなくなった。あんなに週に何度も会っていた気の合う仲間たちと居酒屋が移転しただけでこんなにも疎遠になるんだな、もう一生会えない人も出てくるんだろうな、といろいろ考えているとその現実に驚く。

 今は「居酒屋 谷ツ田 総本店」や「二号店」が北浦和に出来ないかな...と、結構真面目に思っているのだけど、どこまでも自分勝手な自分の性格には、ほんとうんざりする。


ぐるなびお題「思い出のレストラン」
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